京都地方裁判所 昭和59年(わ)17号 判決 1984年5月28日
裁判所書記官
上田清一
本籍
京都市中京区壬生桧町九番地
住居
同市下京区七条御所ノ内本町八六番地の七
会社役員
平林郁三
昭和二二年一一月二八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官酒井徳矢出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金三、〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和五五年四月から昭和五八年一〇月一四日までの間、京都市下京区七条御所ノ内本町八六番地の七において、丸亀屋の屋号で小巾絹織物染色加工業を営んできたものであるが、自己の右事業に関し、所得税を免れようと企て
第一 昭和五六年分の総所得金額が四、六八三万三、五〇六円で、これに対する所得税額が二、二二一万八〇〇円であるにもかかわらず、公表経理上、売上げの一部を除外し、架空の外注加工賃や仕入額を計上するなどの行為によりその所得金額のうち三、八九八万二、五六九円を秘匿した上、昭和五七年三月一五日、京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地所在の所轄下京税務署において、同税務署長に対し、昭和五六年分の総所得金額が七八五万九三七円で、これに対する所得税額が一二三万六、七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二、二二一万八〇〇円との差額二、〇九七万四、一〇〇円を免れ
第二 昭和五七年分の総所得金額が一億八、七六〇万二、〇二八円で、これに対する所得税額が一億二、五三五万三、七〇〇円であるにもかかわらず、公表経理上、売上げや雑収入の一部を除外し、架空の外注加工賃を計上するなどの行為により、その所得金額のうち一億六、一五七万五、五一七円を秘匿した上、昭和五八年三月一二日、同税務署において、同税務署長に対し、昭和五七年分の総所得金額が二、六〇二万六、五一一円で、これに対する所得税額が九七六万二、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億二、五三五万三、七〇〇円との差額一億一、五五九万一、二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 被告人に対する大蔵事務官の各質問てん末書(八通)
一 被告人作成の確認書
一 平林協子(五通)、飯田惇(二通)、中村嘉伸(二通)、戸野一郎、松本末次及び清水雅之輔に対する大蔵事務官の各質問てん末書
一 増崎誠治及び大北良則各作成の各供述書
一 礒川節夫、奥岨捨三及び高田太右衛門各作成の各取引内容の照会に対する回答書
一 平林協子(二通)、栗栖義輝、嶋崎昭一郎、大内五及び中村嘉伸各作成の各確認書
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(一〇通、昭和五八年一一月一六日付―四丁のもの―以外のもの)
一 大蔵事務官作成(昭和五八年一二月二四日付)の証明書
判示第一の事実について
一 井上正一に対する大蔵事務官の質問てん末書
一 谷田功作成の取引内容の照会に対する回答書
一 大蔵事務官作成(昭和五八年一一月一六日付―四丁のもの―)の査察官調査書
一 大蔵事務官作成(昭和五八年一二月一四日付)の証明書(昭和五七年三月一五日付所得税申告書に関するもの)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五六年一月一日至昭和五六年一二月三一日のもの)
判示第二の事実について
一 稲本勝久に対する大蔵事務官の質問てん末書
一 石橋祥弘作成の取引内容の照会に対する回答書
一 大蔵事務官作成(昭和五八年一二月一四日付)の証明書(昭和五八年三月一二日付所得税申告書に関するもの)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五七年一月一日至昭和五七年一二月三一日のもの)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に該当するところ、所定刑中懲役及び罰金の併科刑を選択し、その免れた所得税の額がいずれも五〇〇万円をこえるので、情状により同法二三八条二項を適用して右罰金をその免れた所得税の額に相当する金額以下とすることとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一年六月及び罰金三、〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
本件は、昭和五五年四月から独立して小巾絹織物染色加工業を営みはじめた被告人が、堅牢草木染という独自の染色法を開発して昭和五六年六月ころから多額の利益を得るようになったことから、その利益の大部分を売上除外や架空外注費計上などの方法で秘匿し、二年間に所得税合計一億三六五六万円余りをほ脱したという事案であり、脱税金額が多額であるうえ、右二年間を通じての申告率は一四・五%弱にすぎず、ほ脱率は九二・五%にのぼり、犯行態様も多数の印鑑や異なった種類の領収書用紙等を用意して、次々と架空名義の領収書等を作成して架空外注費計上を行なうなど計画的かつ悪質なものであるので、被告人が本件において税負担の公平を害し、誠実な納税者の守るべき納税倫理を逸脱した程度は著しく、その刑事責任は重大であるといわなければならない。
しかし、他方で、被告人は本人によって生じた留保額をほとんど私的には費消していないこと、本件発覚当時から脱税の事実を率直に認め、修正申告をして既に合計二億円を超える本税、延滞税、重加算税、住民税等を完納するなど反省の情が認められること、交通事件による罰金前科一犯以外には前科がないことなど被告人に有利な諸事情も認められるので、これらを総合考慮して主文のとおり量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西村清治 裁判官 森岡安廣 裁判官 本多俊雄)